第34回 ぐんまこどもの夢大賞 童話部門・最優秀賞
「ぼくと妹」
作:新井 彩月さん (個人応募 5年)
「ぼく、お兄ちゃんになるんだよ。もうすぐ妹が生まれるんだ。楽しみだな。」
ケイスケ君はもうすぐお兄ちゃんになります。どこに行っても、会う人会う人に言うほど妹が生まれるのを楽しみにしていました。
ママと買い物に行くとショッピングバッグを持ってあげます。おそうじだってお手伝いできます。
「ケイ君、いつもありがとう。もう立派なお兄ちゃんだね。」
ママにほめられると、当たり前だよという顔をしていましたが、心の中のケイスケ君は大きくガッツポーズをして喜んでいました。
ママの大きなお腹に向かって優しい声で
「お兄ちゃんだよ。早く出ておいで。一緒に遊ぼうね。」
と話しかけました。そんなケイスケ君を見てママはとても幸せな気持ちになりました。
それから数日後、幼稚園から帰って来るバスを待っていたのはママではなく、おばあちゃんでした。
「ママはどうしたの?」
「赤ちゃんが生まれるから入院したよ。パパがついているから大丈夫だよ。ケイ君はおばあちゃんと一緒にいようね。」
ケイスケ君はパティシエのパパが作ってくれた大好きなクッキーをおやつに食べました。妹が生まれてくる嬉しさと、ママは大丈夫かなという不安な気持ちでクッキーの味がしませんでした。
夕方、パパから赤ちゃんが生まれたと連絡がありました。ママも元気だよと教えてくれたので、ケイスケ君は大喜びして部屋中をピョンピョンと飛びはねました。
夕ご飯を食べている時にケイスケ君は
「ママはいつ帰って来るの?」
おばあちゃんに聞くと
「一週間ぐらいかな。おばあちゃんが一緒にいるから大丈夫だよね。」
夜には帰って来ると思っていたケイスケ君はママにしばらく会えないとわかり、急にさびしくなってシクシク泣き出しました。おばあちゃんがなぐさめてくれましたが泣きやみません。そこにパパが帰って来ました。
「ケイ君どうしたの?ママに会いたくなっちゃったのか。これでどうかな。」
パパはママに電話をかけてくれました。
「もしもし、ケイ君?赤ちゃん生まれたよ。」
いつもの元気なママの声が聞こえました。パパがポチッとスマホのボタンを押すとテレビ通話になってママの笑顔が映りました。ケイスケ君が手を振るとママも振ってくれました。
「赤ちゃんはどこにいるの?」
「今は赤ちゃんだけのお部屋で寝ているからいないんだよ。明日、会いに来てくれる?」
さっきまでシクシク泣いていたケイスケ君は
「絶対に行くから待っててね。」
とすっかり元気になりました。
次の日、ケイスケ君はウキウキしながら病院へ行きました。病室でママが赤ちゃんを抱っこして待っていました。
「ケイ君、優しくさわってあげて。」
ケイスケ君は恐る恐る赤ちゃんのほっぺをさわってみるととてもやわらかくておもちの様でした。次に小さい小さい手をさわってみるとケイスケ君の指をギュッとつかみました。
「お兄ちゃん初めましてのあく手だよ。」
ママにそう言われたケイスケ君は、もう妹にメロメロになってしまいました。
今日はママと妹が家に帰って来る日です。
「ただいまケイ君!サヤちゃんも来たよ!」
妹の名前は『サヤ』に決まりました。パパとママとケイスケ君の三人で考えました。
「お帰りなさい。ママ、待ってたよ。」
ママにいつもの様にハグをしようとするとサヤちゃんがギャーと泣き出しました。
「お腹すいたのかな?おっぱい飲むかな。」
ママはケイスケ君からはなれてしまいました。ケイスケ君がママと話しているとサヤちゃんが起きてまたギャーと泣きます。ママは
「ケイ君、ちょっと待っててね。」
話しの途中で行ってしまいました。ケイスケ君はママを取られてしまったと感じ悲しくなりました。そしてサヤちゃんの事をちょっと嫌いになりました。
お休みの日、パパが近所のスーパーに行こうとケイスケ君をさそいました。でも、
「そんな遠い所まで行けないよ!無理だよ!」
と泣き出してしまいました。
「パパと一緒に近所のスーパーに行くんだよ。」
と言っても泣きやみません。ママと離れるとサヤちゃんに完全に取られてしまうと思ったのです。そんなケイスケ君を見て、パパもママも困ってしまいました。二人の顔をちらっと見たケイスケ君もぼくはもっと困ってるんだとさらに大きな声で泣きました。
もうすぐ夏休みです。ママに夏休みはどこに行くのか聞きました。
「サヤちゃんがまだ小さいし、パパはお仕事が忙しくて長いお休みが取れないんだって。だから、今年はお泊り旅行はできないかな。」
ケイスケ君は楽しみにしていたのに、またサヤちゃんのせいだと怒ってしまいました。
「ケイ君、北海道のおじいちゃんおばあちゃんの所へ行ってみる?」
ケイスケ君はうーんと考えました。
「飛行機好きでしょ?一人で乗れたらかっこ良くない?二人も絶対に喜ぶよ!」
その言葉でケイスケ君は行く事にしました。
出発の日です。ママとサヤちゃんにバイバイをしてパパと車に乗りました。少しさびしくて涙が出そうになったけれど、飛行機に乗れるワクワクした気持ちが勝ちました。空港の搭乗口までパパが送ってくれました。
「これ、パパが作ったクッキーだからおじいちゃんに届けてね。」
パパが紙袋を持たせてくれました。おじいちゃんもパパのクッキーが大好きなのです。
「いってらっしゃい。楽しんでおいで。」
パパに手を振り、係員さんと飛行機に向かいました。ドキドキしながら歩いて行くと、操縦席のパイロットさんが親指をあげていいねのサインをしてくれました。席に案内してもらって大切なクッキーはひざの上に置いて座りました。となりの席には熊さんみたいな大きなおじいさんが座っていました。
「一人なの?すごい!かっこいいね。」
と言ってくれたので少し安心しました。
離陸するとあっという間に雲の上になりました。しばらくするととなりから
「おいしそうなクッキーのにおいがするな。ちょうだいよ。」
と言われたので見ると、おじさんではなく熊さんが大切なクッキーを欲しがっていました。
「ダメだよ!おじいちゃんの大好きなクッキーだからあげられないの!」
ケイスケ君が必死でクッキーを守っているともう着くよと起こされました。夢で良かったとケイスケ君は笑ってしまいました。
おじいちゃんとおばあちゃんがケイスケ君が来るのを空港で待っていてくれました。
「ケイ君、いらっしゃい!一人で良く頑張ったね。すごい!こんなに大きくなって。」
二人は代わる代わるギューと抱きしめました。
家に着くとクッキーをおじいちゃんに渡しました。おじいちゃんは喜んで、さっそくお茶の用意をしてくれたので三人で食べました。
「いつもパパのクッキーはおいしいけど、今日のはケイ君が持って来てくれたからさらにおいしいな。」
ケイスケ君もそう思いながら頬張りました。
無事に着いた事を電話でママに伝えました。ママはとても感激してほめてくれました。ケイスケ君も達成感を改めて感じていました。もっとママと話しがしたいなと思った時、またサヤちゃんの泣く声が聞こえてきました。
「ごめん、またお話し聞かせてね。じゃあね。」
電話が切れてしまいました。さっきまでの嬉しい気持ちはあっという間に消え、ママとサヤちゃんへの怒りの気持ちがどんどん大きくなってきました。その様子を見ていたおばあちゃんが、ケイスケ君に話しかけました。
「ママもケイ君ぐらいの時、同じ思いをしたんだよ。ママにも妹がいるでしょ。生まれた時に、たくさんがまんしてさびしい思いをしたんだよ。おばあちゃんはその時、気づいてあげられなくてね。悪い事しちゃったな。」
そうなんだ、、ママもぼくと同じ気持ちだったんだ。でも、ぼくの気持ちをわかってないな。
するとおばあちゃんが一冊の絵本を読んでくれました。『ちょっとだけ』この本は、お姉ちゃんになったばかりのなっちゃんが、何回もちょっとだけがまんして、一人の力で頑張ってちょっとだけ成功して、最後は赤ちゃんにちょっとだけがまんしてもらってお母さんにいっぱい抱きしめてもらうお話でした。
「このお話、ぼくと同じだ!」
「そうだね。ママが子供の時に読んであげたら同じ事
言ってたよ。だから、おばあちゃんもいっぱいギューしてあげたんだ。上の子はみんなこんな気持ちになるんだね。」
「ぼくもママにギューしてもらえたらお助けお兄ちゃんマンに変身できるのにな。」
おばあちゃんがしても変身するのかしらと思いっきりギューとしてくれました。ケイスケ君はトゲトゲしていた心が少しずつ丸くなっていくように感じました。
ケイスケ君が帰る日になりました。
「もっと居て欲しいな。」
さびしそうなおじいちゃんとおばあちゃん。
「ぼく、お助けお兄ちゃんマンにならないとだから帰るよ。今度はサヤちゃんも一緒に来るからね。またね、バイバイ。」
おじいちゃんとおばあちゃんには、ケイスケ君がピカピカ光る立派なお助けお兄ちゃんマンに変身した姿に見えました。
「ただいまー。会いたかったよ。」
ケイスケ君はパパ、ママ、サヤちゃんをギューと抱きしめました。

