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童話部門最優秀賞

第33回 ぐんまこどもの夢大賞 童話部門・最優秀賞

「てんこう生のハルちゃん」

作:佐藤 果穂さん (前橋市立原小学校 3年)

                         

ある日、てんこう生がやってきた。名前はハルちゃん。ひやけをした、一つしばりの女の子だった。べん強はにが手だった。なぜなら、ハルちゃんは、先生が話している時、ずっとソワソワしていて、動きたくてしょうがない様子で聞いていなかったから。
 それから、耳にえんぴつをさして、けしゴムをくわえて、「フンワンフーン。」っておかしな歌を歌ってたりしたから。
 ときどき、イスの上に足をのせて、体をつくえの上にのせて顔をつくえの前に出してねている事もあるから。
 だからべん強ができなくて、いつもテストは三点なんだ。
 でも、運動しんけいはとてもよかった。
 そのしょうこは、この前、リレーをしていた時、ハルちゃんは、黄色チームで、わたしは黒チームだった。ハルちゃんはアンカーだった。ハルちゃんがバトンをもらった時、黄色チームは、あきらめかけていた。ずいぶんひきはなされていたからだ。でも、ハルちゃんが走りだすと、黄色チームの顔がパッと明るくなって、黒チームはゾッとした。あっという間に黒チームのアンカーをおいこして、いっきにぎゃくてんしたからだ。
 ハルちゃんは走りおわった後、にこっとわらってなか間とタッチした。
「きみたちも速かったよ。」
と言っていた。
 わたしにとってはくやしい思い出だったけど、ハルちゃんは運動しんけいがよかった。
 まぁ、今の話にもどって。
 今は、きゅう食の時間。ハルちゃんは、まちきれなさそうだ。「いただきます。」をすると、ハルちゃんは、一しゅんで食べてしまった。おかわり分も全部食べてしまった。おかげでごはんはのこらずにすんだけど、みんなが食べきれなかった分まで食べたものだからハルちゃんのおなかははちきれそうだった。それでも、昼休みは外で走りまわっていた。
 五時間目は体育だった。
 かんたんなボールあそびで、ラグビーみたいな事をするらしい。ハルちゃんは、ワクワクして、先生の話を聞いているふりをしていた。
 しあいが始まった。ハルちゃんは
「くれ、くれ、くれ、くれ、くれーっ。」
と言ってボールをもっている人のまわりをグルグルグルと回った。仕方なくボールをわたすとすごいいきおいで走って、いっきにトライをした。
 先生が言った。
「すごいですね。ハルさん。みなさんも見習いましょう。走り方のコツを教えてください。」
「えっ?コ、コツ?」
「そうです。コツ。」
「コツはねぇ・・・えっと、あのあの・・・」
みんなはハルちゃんをじっと見る。
「あ、あのね・・・あっそうだ!えっと、何も考えないで走るの。」
「何も考えないで走る?」
みんなの声がかさなった。
「そう、みんな分かる?何も考えないで、風になった気分で走る!。」
「ふーん。」
少し意味が分からない。
「では、みんなで走りましょう。ハルさん、みじかいきょりか、長いきょり、どちらがいいですか。」
「えっと・・・じゃあ長い方。」
「では、1キロメートル走りましょう。」
「うええ。なんでよう。いやあ。きらあい。」
みんなの口から文くがもれた。
「文くを言ってもダメです。やることはやります。」
1キロメートル走っても、ハルちゃんはやはり一いだった。ぜんぜんつかれていなくてよゆうそうだった。
 その日のほうかご、教室で、ハルちゃんは男子たちに、おいかけまわされていた。
 とてもかわいいので仕方がない。
 ハルちゃんはおにごっこみたいと、楽しんでいた。
 男子たちはべんきょうはできないけど、運動しんけいがいい子はすきだと口ぐちに言っていた。
「ハルちゃんは、何がすきなの。」
ハルちゃんをおいかけ回している一人が言った。
「ほね」
「えー!ほね?」
「な、なんで?」
「こわいんだけど。」
男子たちは口ぐちに言った。
そのうち、男子の一人が
「犬でもかってるの?」
「か、かってるんだ。しば犬を。その子がすごくかわいいから・・・。え、えへへ・・。つ、ついね・・あは、あはあは」
ハルちゃんが言った。
 わたしが、
「そうだよね。かわいすぎて、ペットがすきになる物をすきになっちゃう事ってあるよね。」
と言うと、ハルちゃんは
「あはは・・・う、うん。」
 わたしは、ハルちゃんといっっしょに帰る事にした。
 下校中、ハルちゃんはわたしの方をチラチラと見ていた。それはそれは話したそうな目で。だから、
「何か用があるの。」
と聞くと、ハルちゃんは、おどろいた様子で
「キャー。」
と言って、走り出して道路にとび出しそうになった。
「あぶないよ。」
わたしが、あわてて言ってふくをひっぱると、
「ピャッ。」
 その後、すぐに車が来た。わたしがハルちゃんを引きずってもどすと、
「ありがと。」
ハルちゃんはほっと、むねをなでおろした。
 「ところで、さっき、チラチラをこっちを見ていたけど、何か用があるの。」
 「う、うん。じつは帰り道が分からなくて。」
 「え、え、そ、そ、それは本当?」
 「うん。いつもは、家ぞくといっしょだから帰れるけど、今は一人だから、家がどこだか分からなくなっちゃった。」
 「わたしもいっしょに行こうか。」
わたしが言うと、ハルちゃんの顔がパッと明るくなって、
「やったあ。わたしの家は赤いやねの家だよ。」
とハルちゃん。
 三時間さがしてやっとついた。ハルちゃんの家はおしろみたいだった。
 「ここだよ。あんがと。じゃ、バイバイね。」
 わたしはハルちゃんと分かれた。
 わたしのクラスでは、うさぎをかっている。二羽の黒のオスと白と茶色のメス一羽ずつだ。
 「今日は、ハルちゃんといっしょにうさぎの世話当番だね。がんばろ。」
と私が言うと、ハルちゃんは、
「ワン!」
 「ワ、ワン?」
 「いや、あの、家の犬のまねしてみたの。あたいの犬、話かけると、『ワン。』てへんじをしてくれるの。あはは、えへへ。」
 「ま、いっか。うさぎフードとりに行こ。」
 理科室に行ってうさぎフードをもつと、ハルちゃんは、
「うまそう。食べたいな。」
と、したなめずりをした。
 「え、おいしくないよ。あ、ちょ、ハルちゃん、キャー、ギャー、うわー、やめてー。」
わたしは大あわて。だって、ハルちゃんがうさぎフードを食べたんだもの。
「ハルちゃん?大じょうぶ?。」
ときくと、ハルちゃんは、
「うさぎフードより、ドッグフードとか、ほねの方がいいなぁ。」
と言った。わたしは、
「え?どういうこと?」
と聞いた。すると、
「うん。だってあたい犬だもん。かくしててごめんね。犬、犬、イヌ~!イ、イ、イ、イヌヌーン。」
にこにこして、ハルちゃんは、理科室を走り回った。
 わたしは先生に言うと、先生も理科室に来て、おどろいた様子で
「ハルさん、犬・・・なのですね。」
 するとハルちゃんは、みるみるちぢんで、しば犬のすがたになった。それも子犬だ。
 しばらくポカンとしていた先生の足に、「くうん」と言いながら、スリスリした。首にみどり色のバンダナがまいてあって、「小学生ハル」と書かれていた。
 先生が、かわいいと言ったので、みんなわらわらと集まった。みんな口ぐちに、
「かわいー、かいー、かわいです。」
と言った。
 先生は、校長先生にほうこくした。そして
「このクラスでハルさんをかわせてください。」
とたのんだ。しばらく「うーむ」と考えていた校長先生だが、
「まぁいいだろう。」
とへんじをした。みんな、「やったー」と大よろこびした。つづけて校長先生は、
「でも、じょうけんがある。トイレは決めた場所でする事。首に名ふだをする事。これを守れば、かってもいい。わたしもハルさんはかわいいと思う。」
 「ワオオオーン。」
ハルちゃんはしあわせそうに遠ぼえした。
 みんなも、みの回りの犬を見てください。もしその犬の首に「小学生ハル」と書かれたバンダナがまいてあったら、きっとそれが、てんこう生のハルちゃんですよ。

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